錆びたながたん

錆びたながたん
丸い飯台たたき壊して
テーブルと椅子にかえてしまった時から
錆びたながたん忘れ去られて
路地裏の雨だれ跡に埋まっている
昔の私の街は
松並木があって 小川が流れていて
音や匂いに満ちていた
隣では打刃物をたたく音 裏のお寺では読経の声
前では 夫婦げんかの音や笑い声
人の生活 人の暮らし 人の人情みんな生きていた
貧しくても生きていたドタバタしながら生きていた
子どもたちも 親の仕事見て生きていた
錆びたながたん
竈や炬燵をたたき壊して
キッチンや洋風の居間にしてしまった時から
お化けも 縁側での将棋指しも 
謡いや平太鼓や三味線の音もみんななくなって
テレビだけが大きなさんまの口をして
居間をパクパクと食っている
柄のとれ 錆びたながたん捨てられて
忘れ去られて もう何十年もさすろうて
でも やっぱり手作りの味が恋しくて
アジアのへごへご風情 恋しくて
工場製品もいいけれど
使い捨てもいいけれどステンレスもいいけれど
やっぱり本物の重み恋しくて 良いもの作りたくて
何世代も愛されるもの作りたくて
錆びたながたん我がこころ
錆びたながたん我が願い
                                       
(詩集・・・「月の夜の詩」より)
 

錆びたながたん(音楽動画・・YouTube)

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