父の背骨

昔 供奉下士官であった父は 最後の帝国議会で
天皇様を供奉車輌で御供したことが誇りであった

戦争が終わって帰郷し
先祖が残したふる里の家を妻と二人で守り 山と米作り一筋
野山をバイクで駆け巡る供奉下士官の誇りは
今でも八十四歳の老兵の背骨を支えている

ダッ ダダダダダ
ダッ ダダダダダ

父のバイクは父の誇り
リュウマチになっても
足が動かなくてもバイクに乗って田んぼに行く
もうあぶないから乗るなやと言っても
バイクが乗れなくなったら死ぬ時だ
そう笑って今日も足を引きずって田んぼに行く

父に反発し まるで反対の思想を抱いて生きてきた俺は
今頃になって俺の生きざまも
最期まで父の背骨のようでありたいと願う

俺が今この世で一番尊敬する人は 父なのである

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