死よ
命の火が尽きたところよ

死は
己の時が尽きれば必ずやってくる
逃げることは叶わない

入る柩
焼き場の釜
白骨

心配するな母や友も逝っている

ただ
不安なのは その時
母のように 
手を合わせて ありがとうございました と言えるだろうか
一番美しいものになっていることができるだろうか
(詩集・・・「明日のまほろば」より)

死に給ふ母

・・・・

九十歳の天寿を全うし
眠るように死んだ母よ

手を合わせ
皆さまありがとうございました
お世話になりましたと何度も何度もつぶやいて死んだ母よ

そんな母が
村人や親類縁者に見守られて眠っている

夕暮れの電灯は
枯れた山門を白く浮かび上がらせ
守る杉木立の向こうには
若須(わがす)岳(だけ)の稜線が黒い夜をしのばせている

本堂の中は
極楽浄土の美しさ

唱和する読経の声

ああ どうしましょ
こんなに盛大になって と恥ずかしがる
母の姿が浮かぶ

・・・・

六月の山を思うたびに
母の愛した笹百合を思い出す

子どものころ
気品ある 玲瓏な姿が
あら あんな所に と思うほどに
山の片隅で
やさしく 静かに 一輪 
咲いていた

僕は 子どもごころに
笹百合の気品と美しさにあこがれて
僕のものにしたいと
庭の片隅に 何度も何度も植えかえたものだ
でも なかなか上手くいかなかった

そして
今はもう
めったに見ることができない

でも 僕は知っている
六月になれば
母の愛した笹百合が
山のどこかの片隅で
今も 静かに
一輪 咲いていることを

   ・・・

思い出すのは
母の優しさ
無限の信頼

思い出すのは
生まれ育った
昔の時代

田んぼよ
山よ
空よ

小さな母が田んぼにいて
僕は稲を背負って
ああ こころの中に貼りついている世界よ
なむあみだぶつと
手を合わす母よ

ふるさとは
母のこころ
無限の仏様のはげまし

もう
ふるさとの家に帰っても
母はいない

でも

田んぼよ
山よ
空よ

この無限の励まし

   ・・・

村の道の傍らに
たたずむお墓

よう来たな と
うれしそうに笑っている母と
僕は
極楽石に座り
語り合う

昔と
変わらぬ

変わらぬ風
変わらぬ若須(わがす)岳(だけ)
                                       (詩集・・・「ひとと宙(そら)」より)

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